Facta non verba ~鋼殻のレギオス~
Try it!
今日はエイプリルフールなので、馬鹿っぽいお話でも。
寮のキッチンは、ある種異様な緊張感に満ち溢れていた。
「さぁニーナちゃん、今こそ訓練の成果を示す時よ!」
セリナはぎゅっと両手で拳を作り、目の前に立つ少女へ向けてエールを送る。その隣には、いつもの困ったような笑みを浮かべたレイフォンがいる。
「う、うむ・・・」
ごくりと唾を飲み込み、ニーナは汗で滑りかかる手を再度握り締める。
右手に握られているのは、ペティナイフと呼ばれるものだ。そして左手には紅くつややかな色をした果実。リンゴである。
「落ち着いてやれば大丈夫だからねっ」
セリナの声に一つ頷いたニーナは、緊張でぷるぷると震えるナイフをリンゴにそっと添える。
さくり、と音を立ててナイフの刃が皮に食い込む。そのまま、そろそろと左手を動かせば、くるりくるりと――非常にゆっくりとではあるが、リンゴの皮が螺旋状に剥かれていく。
キッチンに響くのは、リンゴの立てる爽やかな軽い音と、やや荒いニーナの吐息だけだ。武芸の訓練の時でもこんな緊張感はないだろう。まるで口をひらきでもしたら螺旋を描く皮が途切れてしまうとでもいわんばかりに、セリナは息を詰めている。レイフォンもそれにつられてか、困惑の視線のままではあるが、沈黙を保っている。時々肩が揺れるのは、危なっかしいニーナのナイフ使いに怯えてのことだ。流石に指を切るようなミスはないが、そうなってもおかしくない場面は多々あった。
やがて、とさっとかすかな音を立てて、紅色の螺旋がテーブルの上に落ちる。
「や・・・やったぞ!」
いびつな形ではあるが、なんとか皮を剥き切ったリンゴを、ニーナは高々と宙に差し上げた。力を込めすぎたのか、零れ落ちた果汁が彼女の手のひらを濡らす。
「おめでとうニーナちゃん!!」
満面の笑みで拍手をするセリナと、状況が読めないながらも、なんとなく同じように拍手をするレイフォン。しかし、流石にこのままではいけないと思ったのか、レイフォンは恐る恐るといったように口を開いた。
「あの、ところで、なんで僕がここにいるんでしょう」
「それは勿論、ニーナちゃんの『作品』を食べるためよ」
当然でしょう、といった風にセリナは微笑む。慈母のような微笑に見守られながら、ニーナはリンゴを当分にカットするべく奮闘している。
「はぁ、そうですか」
まぁリンゴの一つ位ならと思ったレイフォンは、数分後、自分の考えを後悔する事になる。
そう、セリナは言っていたではないか。
――訓練の成果を、と。
そしてレイフォンは、大皿に山と盛られたリンゴ(大半は残骸ではあるが)約三十個分を食べる羽目になったのだった。
- END -



こんばんは。いつもSSを楽しみに読ませて頂いております。
mioさんに教えて頂いたおかげで広告の表示が消えました。
本当にありがとうございます。
短い文で申し訳ありませんが、今日はこれで失礼いたします。