Facta non verba ~鋼殻のレギオス~
デイ・ウォーク
blogカウンター「2222」キリ番による、ポポ様からのリクエスト作品
お題:
キャラクター : 女王とリンテンス
シチュエーション : 女王の何かに付き合わされるリンテンス
前触れなく訪れて破壊の嵐を撒き散らすものと言えば汚染獣だが、別の意味で破壊力抜群な訪問者といえばグレンダンの女王アルシェイラだ――と、リンテンスは思う。
この日も予告なく押しかけてきたアルシェイラは「行きたい場所があるのよ!」と高らかに宣言。来た時の勢いのままに、リンテンスの腕を掴んで外へと引きずり出した。暇かどうかの確認すらないが、これも概ね『いつもの事』だ。同行を断る理由を考え、何も思いつかなかったリンテンスは、苦虫を噛み潰したような表情のままで息を吐く。別に女王の随伴≪おとも≫をするのは構わないのだが、どこに行って何をするのかも分からないままに連れ去られるのは、些か気分が悪い。道を並んで歩きながら問いかけの言葉を投げかける。
「どこへ行くんだ」
「食事よ。この間、学区にオープンした店のデザートが、すごく美味しいんだって」
弾むような足取りで歩きながら、アルシェイラは爽やかに答える。
「それくらいなら、王宮の誰かを連れて行け。わざわざこんな場所まで来て、俺を連れ出す意味はないだろう。三千秒近く無駄になる」
「えー、それじゃお忍びの外出にならないじゃない」
バレないように裏口から出てきたのにぃ、と、風で乱れた髪を指先で払いながら唇を尖らせる。
「それにさ、前にカナリスを連れて行ったら『陛下がこんな場所で食事など』とか『毒見は自分が』とか、うるさくって全然食べた気がしないんだもの。その点、リンなら何も言わないしね。気楽でいいわ」
――どうやら空気を読んで沈黙を保つわけではなく、面倒で言わないだけでもいいらしい。仕方ないと言わんばかりに再び溜息をつくと、リンテンスは復元した鋼糸を目指すエリアへと先行させた。
目的地である学区は、都市内での通称だ。字面で分かるように学校や研究施設が多い地区で、幼年学校から研究所まで多彩に集まっている。正式な住所表記は別にあるが、グレンダンに住むものにとっては通称の方が通りがいい。特に義務教育年代の学校は、全てこの地区に設立されている。都市は外縁部より中心の方が安全度が高いため、幼年者向けの施設は、行政施設と同様、中央寄りに集められるのだ。だからグレンダンに生まれ育つものにとっては、自宅周辺に次いで慣れ親しんだ区域となるのだ。
そんな学区は、都市中央に聳え立つ王宮からは目と鼻の先であり、リンテンスの住まいからは遠い。だからこそ『わざわざこんな場所まで』とリンテンスは口にしたのだが、アルシェイラにしてみれば、食事の前の軽い運動といった感覚なのだろう。
黙然と歩きながら鋼糸から伝わる情報を探っていたリンテンスは、不意に眉を寄せる。僅かな表情の変化に気づいたアルシェイラは、言葉を促すように視線を向けた。
「学区で何か集会でもやっているのか?」
休日である今日は、普通であれば学生の数は少ないはずだ。だが、鋼糸は数多くの人間が学区に集まっている事を伝えてくる。しかも建物の中ではなく、外、つまり校舎を囲む広場などに集中している。これは授業を受けているのではなく、何かの集まりでも行われているのだろうと推察するのが自然だ。
人の多い場所は騒ぎも起こりやすい。面倒事を避けるための確認だったのだが――。
「んー? なにかしらね」
軽く首を傾げる仕草と同時に、軽い跳躍で近くの廃ビル屋上へ飛び移る。半秒遅れてリンテンスがそれに続く。内力系活剄で強化された視力で彼方を見やったアルシェイラは、何か興味の沸くものでも見つけたのだろう。きらきらと瞳が輝き、口元には悪戯っぽい笑みが浮かぶ。
「見に行くわよ!」
高らかに宣言し、再び地上へ戻るとヒールの踵を鳴らして走り始めた。
◆ ◇ ◆
アルシェイラの先導で二人がたどり着いたのは、上級学校の敷地だった。正門の上には『学園祭』と書かれた大きな手書きの看板が掲げられている。黒々と墨で書かれた文字は綺麗とは言い難いが、勢いと元気に満ち溢れ、学生らしさを現しているように見える。
「こういうのを見るのって初めてだわ」
楽しげにアルシェイラは通路にそって立ち並ぶ模擬店を覗き込む。推測でしかないが、王家の子女であり、しかも生まれた時から女王となる事を運命付けられていた彼女は、一般の学校に通うと言う事もなかったのだろう。祭りといえば式典や祭典で、一段高い場所から見下ろす側だったはずだ。こうやって人波の中を歩くと言うのは、彼女が口走った通りに初めての事なのだろう。
「ね、これどんな味なの?」
振り返りざまに尋ねられ、リンテンスは彼女の肩越しに視線を向けた。彼女の指差す先では、小さな球形に焼き上げられたものが、プラスチックトレイに盛られている。
「......どんなと言われてもな」
説明しようとして言葉に迷う。
小丸子と呼ばれる料理で、穀物粉の生地を小さな球形に焼き上げたものだ。中心に何らかの具が入っていることが殆どで、甘辛いタレで食べるジャンクフードの一種だ。
リンテンスの出身都市では肉やチーズを具材とする事が多かったが、グレンダンでは何を使っているのだろうか? まさか鋼糸で料理を切り裂いて中を確認するなんて出来やしない。リンテンスは上着のポケットから小銭を取り出すと、店番の学生にそれを渡した。
「気になるなら、食べてみればいいだろう」
「まいどありっ!」
元気のいい声で応じた学生は、アルシェイラへまだ温かい一皿を手渡す。
「この楊枝で食べればいいからね。熱いから火傷に気をつけて」
料理の種類を問う会話が聞こえていたのだろう。愛想良く、学生が食べ方を教授する。
「あっ、うん。ありがと」
珍しく、動揺した表情を表に出したまま、アルシェイラは皿に盛られた小丸子を受け取る。食べるにせよなんにせよ、屋台の前では邪魔になる。リンテンスはアルシェイラを促して店前から離れ、道から少し外れた場所にあったベンチへ並んで腰をおろした。
校舎の影に位置する場所だが、肌寒さを感じるというよりは心地よい気温といった感じだ。何組か同じように食事をとったり休憩しているグループもいるが、ベンチ自体が離れて置かれているためか、それとも祭りの喧騒が勝つからか、彼我の声は意識を向けない限りはあまり聞こえない。
膝の上に皿を載せ、暫くじっと凝視する。いい加減食べないと冷めるのではないか、とリンテンスが思い始めた頃、ようやく彼女は楊枝を手に取った。ソースに気をつけながら一口で頬張り、ゆっくり咀嚼する。軽く瞬いた後、唇が笑みの形を浮かべた。
「美味しい」
「そうか」
「チープな味だけど」
ぽつりと付け足された感想に、リンテンスは無愛想に応じる。
「こんな料理に、高級感を求めるな」
「分かってるわよ」
チープと評した割には味が気に入ったのだろう。次々に小丸子を口に運んだ。時間を置いた割には冷めていないのか、時折熱さを訴える声が響く。あっという間に半分以上を食べつくしたところで、ふと手を止めた。小丸子を刺した楊枝片手に小首を傾げる。
「リンも食べる?」
「いや、俺はいらな――ッ!?」
断りの言葉を口にしたところで、お約束のように口内に熱い塊が放り込まれた。
片手で口元を押さえ、悲鳴が漏れるのを辛うじて堪える。この日最高級に不機嫌な顔で睨みつけると、悪戯を成功した子供のような顔でアルシェイラは笑った。
「美味しいでしょ」
「......」
奥歯で噛み砕き、飲み込んでからリンテンスは小さく頷く。
「いいなー、学生楽しそうだよね」
軽い口調ながら、ほんのひとかけらだけ真摯な憧憬が混ざった声が零れ落ちた。
多分そこに混じる雫は、決まりきった毎日を、いつ来るか分からない『その時』に備えて過ごすことへの倦み。
「通ってみればいいじゃないか」
驚きの表情で見返すアルシェイラの視線を感じながら、ざわめく学生たちを眺める。目に見える範囲では二十歳前の子供たちが多いが、もっと年長の、恐らくは学問を究めるために学ぶ事を専業とした研究者たちも数多くいるようだ。
「別に子供じゃなければ学校に行けないと言うわけではないだろう」
「それはそうだけど」
女王にしては珍しい事に、何を言おうか考えるように口を数度閉じたり開いたりした後、ようやく言葉を継いだ。
「行ってもいいのかな?」
「お前に『駄目』と言える人がいるとでも?」
「それもそうか」
にひひ、と崩れた表情で笑うアルシェイラの顔は、少し前までの表情が嘘のようにスッキリとしていた。
「よし、じゃー新しい目標も出来たところで、改めてご飯食べに行こう」
勢いよく立ち上がり、空になった小丸子の皿を近くのゴミ箱へと投げ捨てる。
「まだ喰うのか?」
「こんなの食べたうちに入らないわよぅ」
完璧な放物線を描いた皿がゴミ箱に納まる音を背中で聞きながら、リンテンスの腕を取る。そして、校門の方へ彼を引きずるようにして歩き始めた。
◆ ◇ ◆
――――やがてアルシェイラは、数ヶ月の後、シノーラ・アレイスラという偽名と、上級学校院生という新しい肩書きを手に入れた。
そこで新たな友となる少女に出会うのは、もう少しだけ先の話となる。
- END -
本来ですと、対象者さまに小説をお送りしてから2週間ほどあけて公開・・・の予定だったのですが、早めに公開してOKですというお言葉を頂きましたので(※実は前々からお聞きしていたのですが、昨日の記事の時点では伏せていました)、さくっと公開をさせていただく形になりました。
ポポさま、公開のご了承ありがとうございました!
以下、あとがきっぽい言い訳みたいなものです。
【 afterwords 】
付き合うと言うより、引きずり回されているだけのような気もします。
別に学園祭でも何でも良かったんですが、女王がリンテンスに何かを喰わせる、というシーンが突如書きたくなったのでこんな感じになりました。で、普通のご飯屋さんだと難しそうなので、屋台で。
最初は素直にレストランへ連れて行こうと思っていたんです、本当ですよ! そっちのルートでは「そんなボロボロの服で行く店じゃないわよ!」→洋服屋へ連行→リンテンスに服を買い与える・・・まで想像して「スーツとかタキシードみたいな高級な洋服着たリンテンスが思い描けない!!」で終わりました。
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