Facta non verba ~鋼殻のレギオス~
TEA TIME ARABESQUE
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明日は休みという終末の夜に、読書をしていて夜更かししたフェリは、小腹を満たすための物を求めて自販機エリアへ向かっていた。まもなく日付が変わろうとする夜更けだが、念威繰者であるフェリは、自衛手段には事欠かない。深夜であろうとなんだろうと、気が向けば一人ででも買い物に出る。
自販機エリアの販売物は、かなりバラエティに富んでいる。暫く悩んで、ミルクティと焼き菓子を買う。普段はスナック菓子を買うことが多いフェリだが、この焼き菓子はエーリが『美味しいんです』と言っていたのを思い出したのだ。
たまには違ったものを買うのもいいだろう。お茶が冷めない内に寮へ戻ろうとしたところで、見慣れた人影が現れた事に気づく。
「あれ、フェリ先・・・、フェリ、こんばんは」
銀色の瞳に睨まれてレイフォンは名前を呼び直す。
「フォンフォンも夜食ですか?」
キャッシュカードを取り出したレイフォンは、首を横に振り、ドリンクの販売機の前へ向かう。
「課題をやってたんですけど、終わらないのに眠くなっちゃって。少し気分転換です」
「なるほど。――よければ教えましょうか?」
フェリがそう申し出たのは、勿論多少の下心があってのことだ。ここの所、レイフォンとゆっくり話す機会に恵まれていない。
小隊の訓練後は一緒に帰る事もあり、自然と共に過ごす時間が増えていたのだが、都市戦争にむけての全体訓練が増えた昨今は、武芸者と念威繰者は別々の訓練メニューが組まれることが多く、別行動が増えていたのだ。
たとえ勉強が口実でも、気になる相手と少しでも多く時間を過ごしたいと願っても、おかしくはないだろう。それに、フェリの成績はリーリンの折り紙つきだ。以前レイフォンとミィフィが赤点を取った時も、彼女は教師役をしていた。いまレイフォンの先生役をしたって、何もおかしくはないはずだ。
だが、そんな考えはあっさりとレイフォンの言葉で打ち砕かれる。
「それは嬉しいけど、真夜中から勉強会をやるわけに行かないですよ。それに、フェリに手伝わせたってバレたら、あとでリーリンに怒られそうだから」
軽く肩をすくめ、でもありがとうございます、とレイフォンは笑った。
「そうですか」
そうか、リーリンの課題だったか、とフェリは唇を噛む。
赤点事件以来、時折リーリンはレイフォンの勉強を見ているようだった。曰く、次の試験までツェルニにいるようだったら、絶対赤点など取らせない――との事だが、彼女のことだから、きっと実現させてしまうに違いない。
「では頑張ってください」
声に落ち込んだ気持ちは現れていないはずだ。
感情が表れにくい自分の性質を、フェリは思わず感謝する。なるべく淡々と言葉を口にし、自分の寮へと向けて歩き出そうとする。その背をレイフォンの声が追いかけて来た。
「あ、寮まで送りますよ」
「・・・気分転換に、ですか?」
反射的に言い返してしまってから、フェリは激しく後悔する。
(ああ、何を言っているのだろう)
これではまるで、八つ当たりだ。
「えっ、そ、それは確かに買いものは気分転換ですけど――」
しどろもどろの様子でレイフォンは慌てた声を紡ぐ。
「フェリを送っていく事に、他意はないですよ?」
「当たり前です」
レイフォンが善意で言っているのは分かっている。
むしろ自分の方が『他意があればいい』と願っているなんて、絶対言えやしない。
(フォンフォンが悪いわけじゃない)
この鈍感大王が原因なのは間違いないけれど、彼の言動に惑わされている自分が一番滑稽で哀れだ。
「あの、・・・フェリ?」
はっと気づけば、長い沈黙を不可解に思ったか、レイフォンが間近で顔を覗き込んでいた。その距離の近さに思わず怯み、半歩身を退きかけて――自販機エリアに置かれたベンチに躓く。
「あっ」
ずるり、と足が滑り、仰向けに倒れかけた身体をレイフォンが腕を伸ばして支えた。だが、いくら細く軽いフェリでも、人ひとりの体重が急にかかっては、レイフォンとて支えきるには力が要る。近くのテーブルに片手をつき、重力に曳かれる肢体を、腕の中へ閉じ込めるようにしてバランスを保つ。
「大丈夫ですか!?」
「ええ、すみませ――」
フェリは乱れた髪を片手で直そうとして、自らの置かれた体勢にぎょっとする。これではまるで、テーブルへ押し倒されているかのようだ。蛍光灯の眩しさも相まって、反射的に目を閉じる。
視覚が閉ざされることで他の感覚が鋭敏になったようだ。ざらりとした布の感触をむき出しの膝に感じる。レイフォンの下肢が触れているのだ。自分の纏う制服の布と素材が変わるわけではないのに、全く別物に感じるのは中に孕まれる体温の違いだろうか?
「すみません、大丈夫です」
努めて冷静に聞こえるように声を紡ぐ。
頬にかかる髪を払いながら目を開けると、真っ直ぐに見下ろしてきたレイフォンの視線と絡み合った。
「ならいいですけど」
ほっとしたように笑う顔を見ていたら、フェリはなんだか悔しくなってきた。
心配されているのは分かる。大事にもされているのだろう。少なくともチームメイトとして、もしかしたらその中でも、共に汚染獣の危機を乗り越えた仲として、より親しく。
でも、それだけだ。
恋とか愛とか、そんな要素はレイフォンの武芸者脳の中には一片たりとも存在していないのだろう。
(くやしい)
事故めいたものとはいえ、一度はキスをしたのに。
(意識すらされないのですね)
能天気な表情で自分を見つめてくる男を見返していたら、ふつふつと怒りのようなものがこみ上げてきた。
フェリはそっと片足をあげると、レイフォンの膝を思い切り蹴飛ばした。非力なフェリだが、ブーツのヒールが丁度いい場所にヒットしたのだろう。くぐもった悲鳴を上げ、レイフォンは足を押さえて飛び退る。
「っ、ちょ・・・フェリ、いきなり何するんですか!」
蹴られた足を押さえて訴える。彼女を見上げる瞳には、うっすらと涙が浮いていた。
「いつまでも人の上に乗っかっていないで下さい。重いんですよ」
「す、すみません」
スカートの裾を直して立ち上がったフェリは、先ほど自販機で買ったものを腕に抱える。温かかったはずのミルクティはすっかり冷たくなっていた。
しかし買いなおす気は全くなかった。こんなに胸が高鳴っている時に熱い飲み物を飲んだら、心臓が焼き切れてしまうに違いない。
「帰ります」
言い捨てて、レイフォンの返事を待たずに歩き始める。追って来る気配はある。
(わたしばかり、いつも追いかけるのは悔しいのです)
たとえそれが先だって口にした『送る』という言葉を果たすための義務だとしても、たまには追われる立場を味わいたいと思うのだ。
小走りの足音が近づいてくるのを、フェリはゆっくりと歩調を緩めながら待つのだった。
- END -
時期的なキーワードはいくつか埋め込みましたが、先月発売の短編集より後ですね。ちょっとラブい話を書こうと思ったのに、あれ・・・いつもどおりだな、という感じです。
文章を書いていて気をつけるのは、あまり「・・・」や「――」と言ったものを多用しすぎないと言うことです。そういうものを使わずに、言葉や文章の余韻というか、空間? 時間経過? そういうものを出せたらいいなぁと思っていますが、なかなか上手くいかないものです。
女の子ヒロインズ(多いよね!)は皆好きです♪ 中でもリーリンが一番好きですが、他の子たちもすごく可愛いです。
季節イベントごとには小さなお話を上げて行きたいと思っているんですが(X'mas、新年と無理やりアップしたようにw)、まだツェルニでは(1年を経過していないので)シーズンイベントを書きにくいんですよね・・・なので、ついグレンダンでの過去話にしてしまう率が上がると思うんで、それ以外の場面では、なるべくツェルニ組を書いて行こうと思います。
・・・思ってますが・・・1月は仕事がかなり忙しいので、更新は皆無に等しくなるかも!(爆) 暫くはネタ集めに頑張りたいと思います。
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